Japanese EFL Speakers’ Willingness to Communicate in L2 Conversations: The Effects of Code-switching and Translanguaging

文献紹介

文献概要

今回紹介する文献は、”Japanese EFL Speakers’ Willingness to Communicate in L2 Conversations: The Effects of Code-switching and Translanguaging”です。

学習者のWTCに影響を与える要因についての研究はこれまで様々な環境で様々な要因について行われてきましたが、今回は学習者のL1(母語)使用がどのようにWTCに影響を与えるのかを研究した論文です。L1使用の代表例としてcode-switchingはよく知られていますが、近年translanguagingという考え方も広まってきています。それらのL1使用がどのようにWTCに関わってくるのか是非お読み頂ければと思います。

Introduction

  • EFL環境では、英語に触れる機会が限られ、その環境で、英語を身につけるために、外国語での思考をさせるために母語を可能な限り排除し、外国語だけで指導するmonolingual approachが広まっている(Cummins, 2007; Macaro, 2001)。しかし実際にはtranslanguagingやcode-switchingなどでの母語の使用は頻繁に見られる(e.g., Wei, 2018)。
  • 日本では、学習指導要領において、実用的な言語能力を身につけるために、中高の英語の授業では英語で行うことが基本とされているが(MEXT, 2009, 2017)、日本語を用いることも認められている(MEXT, 2017)。
  • しかし、この柔軟性があるが故に、L1使用は外国語指導・外国語学習において否定的に見られるべきなのかどうかという疑問が出てくる。
  • 本研究では、L2学習者のL1使用でのwillingness to communicate (WTC)への影響を調査する。

Literature review

L1 use in the L2 Classroom

  • Monolingual approachでは、外国語の使用と学習者の母語の排除を重視し、できる限り学習者に外国語での思考をさせることを狙いとしている(Cummnins, 2007)。
  • L2教室でのL1使用の1つとして、code-switchingがあり、コミュニケーションの目的に応じて、文の前後や文の中で、L1とL2を切り替えることである(López & González-Davies, 2016)。
    • Wei(2000)は、バイリンガルが同じ言語背景を持っているもの同士での会話の際に言語を切り替え、これは言語の注意深い操作が関わり、様々な形式を持つと説明している。しかし、伝統的なバイリンガリズムでの形式では、バイリンガル話者が異なる言語を持つことを前提とし、言語資源というよりむしろコミュニケーションの混乱(中断?)として見られている(Grosjean, 1989)。
    • Code-switchingは、語彙や文法の不足や外国語での自己表現の回避など、不十分なL2知識によって引き起こされる(Gardner-Chloros, 2009; Liebscher & Dailey-O’Cain, 2005; Lightbown & Spada, 2013)。
    • Levine(2003, 2011):適切なL1使用がL2学習に価値があり効果的であり、取り入れることでL2学習者が活発に取り組み、それがより高い言語習得につながる。
    • Han and Filippi(2022):頻繁に言語を切り替える人は、目標からぶれず、矛盾する情報をうまく処理できていることから、code-switchingの経験が認知上の発達に寄与することを示した。
    • 多くの研究がL2学習でのL1使用を有益とし、L1使用が学習者の参加を強化し高めることができると結論づけている(e.g., Butzkamm, 2003; Levine, 2003, 2011; Macaro, 2001; Tian & Macaro, 2012)。
  • 近年、他のL1の手段として、translanguagingが注目を集めている。Translanguagingは、社会的・政治的に定義された言語の境界に関係なく話者が自分の言語の技能・技術の全てを使用することとされている(Otheguy et al., 2015)。
    • Cenoz and Gorter(2022)は、translanguagingが、授業における様々な言語使用や、学習過程での指導的関与の程度次第で、robustにもmildな形式になるとしている。それぞれの例として、robustな形式では、メタ言語意識を養成するために、1つの授業の中で様々な言語資源を取り入れ、mildな形式では、別々の授業で言語横断的あ活動を行う。
    • translanguagingとcode-switchingの違いは、code-switchingがL2での習熟度の不足によるものであるのに対して、translanguagingはL2学習のために教室で利用できる言語を最大限利用する指導である。

Willingness to Communicate (WTC)

  • WTCは元々、L1環境で生まれ(McCroskey & Richmond, 1990)、その後L2環境に持ち込まれ(MacIntyre & Charos, 1996)、L2WTCはピラミッドモデルで示されている。ピラミッドモデルでは、下位の3つの層が状況面を指し、上位の3つの層が情意面を指す。
Sato(2023)より引用
  • WTCは、その特性からtrait WTC(性格的であまり変化しない)とsituational WTC(状況に応じて変化する)に分けられる。
    • Kang(2005):心理的な状態がsituational WTCに影響する。
    • Eddy-U(2015):L2コミュニケーションへの自信や動機付けがsituational WTCに影響する。
    • 他にも、会話相手の親密度や関与の程度(Cao & Philp, 2006)、トピックや準備時間等(Pawlak & Mystkowska-Wiertelak, 2015)、自信(Cao, 2011, 2014)がWTCの変化に影響すると報告されている。
  • 日本の環境での研究においても内的要因と外的要因の両方が日本人L2話者のWTCに影響することが報告されている。
    • Sato(2019):意見を言う際や挑戦する際には上級者のWTCが高まり、一方で英語の説明の不安や英語力への自信はWTCの減少に大きく影響した。
    • Sato(2023):英語力の不足による不安は全てのレベルの話者に影響を与えたが、熟達度の低い学習者はトピックへの興味や話し相手の影響が関係し、熟達度の高い学習者は自分自身や自分の意見を話す機会に関係した。
    • Yashima et al.(2018):個人の性格や能力または状況的な要因(他の生徒の反応やグルーでの会話の行動)がsituational WTCに影響を与えた。
  • これまでの研究ではL1使用とWTCに関する研究はあまり行われていないので、本研究では次の3つのRQを置く。
    • RQ1: L1やL2を話している時に高い熟達者の日本人のWTCの程度に違いはあるのか。
    • RQ2: L1を話している時に情意面と文脈面での高い熟達者の日本人のWTCの要因は何か。
    • RQ3: L1使用の理由は何か、そしてそれらはWTCとどのように関係するか。

Method

Participants

  • 6名の英語教育専攻の日本人大学生
  • 3名は学部生、もう3名は大学院生である。
  • 全員日本語が第一言語である。
  • Fusaについては留学経験があり、高校レベルでの7年の教員経験もある。
  • 本研究ではsituational WTCが目的だが、situational WTCの設定点(set point)を決めるために収集した。
Sato(2023)より引用

Procedure

  • 研究者との1対1での対話で2つのセッションが行われた。
  • 両方のセッションでは、ビデオとボイスレコーダーでの記録が行われた。

Session 1

  • Short speech
    • 参加者はスピーチのトピック(例. Should more people become vegetarian in the future?)が与えられ、それについて自分の意見を話した。
    • このトピックは英検準1級のライティングから持ち込まれた。
    • 理由は、トピックについての理解に基づいて自分の意見を話すことで論理的思考やスピーチの構成が高まることから。
  • Interview activity
    • スピーチの後に半構造化インタビューを実施し、先ほどのスピーチのトピックについて掘り下げた。
    • 基本的には英語での実施だが、参加者は日本語に切り替えることができた。

Session 2

  • WTC Self-assessment
    • 最初のセッションのビデオを見ながら参加者は自身のそれぞれの発言に対して自らWTCを評価した。
  • Stimulated Recall Interview
    • 参加者はWTCの変化や日本語を使用した理由について説明した。
Sato(2023)より引用

Analysis

  • 参加者のWTCの変化を分析するためにカイ二乗検定を実施した。
  • stimulated recall interviewから参加者のL1使用においてのWTCの要因を調査し、参加者が話した要因について質的に分析が行われた。
  • 分析にはthematic analysis(Braun et al., 2019)も実施された。
    • 手順は次の通り
      • Data familiarization:データの確認
      • Code generation:データからのコード作成
      • Theme construction:作成したコードからのテーマの集約
      • Theme revision and definition:作成したテーマの見直しと決定
      • Reports of analysis:分析内容の書き出し
    • 分析の結果から次のことが分かった。
      • WTCを高める要因
        • Interest in the topics
        • Confidence in the content
        • The opportunity to talk about oneself and one’s opinions
        • The influence of interlocutors on one’s sense of security
      • WTCを下げる要因
        • Lack of English proficiency
        • Anxiety
        • Lack of ideas and confidence in the content
        • Lack of interest in the topic
      • L1使用の理由
        • Lack of English proficiency
        • The interviewer’s use of L1
        • Content clarification and emphasis
        • Appropriateness of L1

Thematic analysisについては此方を参照ください↓↓

How to Do Thematic Analysis | Step-by-Step Guide & Examples

Results and Discussion

  • RQ1「L1やL2を話している時に高い熟達者の日本人のWTCの程度に違いはあるのか」
    • 英語では、170の発話において高いWTC、103の発話で低いWTCが確認された。
    • 日本語では、52の発話において高いWTC、61の発話で低いWTCが確認された。
    • カイニ乗検定で、異なる言語で異なるWTCが示されたが、効果量は小であった。
    • 参加者は英語を話す際にはWTCが高い傾向だが、L1に切り替えた際にWTCが下がった。
      • L1使用はWTCの減少と関係し、これは不十分なL2知識や技術によって起こるcode-switchingの消極的な見方と一貫している(Gardner-Chloros, 2009; Liebscher & Dailey-O’Cain, 2005; Lightbown & Spada, 2013)。
    • 一方で、意識的にL1を使用した際に、L2の時よりWTCが下がらなかった参加者もいた。
  • RQ2「L1を話している時に情意面と文脈面での高い熟達者の日本人のWTCの要因は何か」
    • 参加者のL1使用の情意面と文脈面の要因を分析するために、やり取りとstimulated recall interviewで得られたデータから分析を行った。
      Sato(2023)より引用
    • Lack of English proficiency
      • 英語でやり取りを行いたかったが、英語力の不足(語彙や表現等)のために、言いたいことを言うために日本語に切り替えた。しかし、切り替えてしまったことに後ろめたさを感じてしまったために、WTCを下げることとなった。L1使用やcode-switchingはcommunicative strategyと考えられているが(e.g., Rossiter, 2005; Tarone, 1977)、英語力の不足による場合は、WTCに負の影響を与えるかもしれない。
        Sato(2023)より引用
      • Lack of ideas and confidence in the content
        • 自分の話す内容が正しいかどうか自信がなく、日本語を使用したことでWTCが下がった。しかし、これは英語力の不足によるものではなく、話している内容についての考えや自信の不足であり、トピック自体の問題である。教師は負担なく話すことができるトピックを選ぶ必要があるかもしれない(Hughes, 2003)。
          Sato(2023)より引用
      • The opportunity to talk about oneself and one’s opinions
        • 自分が本当に言いたいことを伝えるために日本語を使用することでWTCが高まった。参加者が自身や自分の意見や信念についての重要な情報を共有することを決めた際に言語にかかわらずWTCが高まったことは、translanguagingと一貫性があり、それは言いたいことや意味づけの過程である(Wei, 2018)。
          Sato(2023)より引用
  • RQ3「L1使用の理由は何か、そしてそれらはWTCとどのように関係するか」
    • 参加者のL1使用の原因について、発話とstimulated recall interviewから分析を行った。
      Sato(2023)より引用
    • Lack of English proficiency
      • 英語で話していたものの、自分の英語力の不足を感じ、日本語に切り替えた。しかし、そうすることで会話はうまく通じたものの、日本語に切り替えてしまったことにがっかりしてしまい、WTCの減少につながった。
        Sato(2023)より引用
    • The interviewer’s use of L1
      • インタビュー者が日本語を使うことで、参加者が日本語で答えた。この状況では、参加者は英語力の不足を感じる必要がなく、WTCにも負の影響を与えなかった。
        Sato(2023)より引用
    • Content clarification and emphasis; appropriateness of L1
      • 自分の言いたいことを伝えるためにあえて日本語を使った。Ryoの場合はこの時のWTCが最大であった。
        Sato(2023)より引用
      • Kaiも高いWTCを維持しながら母語の使用を英文中に使用した。これは英語での言い換えを行うのではなく、日本の文化としてあえて母語を使用した。
        Sato(2023)より引用

Conclusion

  • 今回の研究では、L1使用とL2使用でのWTCの程度を比べたが、L2使用の方が高い傾向であった。また、L1使用の原因は、英語力の不足とインタビュアーのL1使用であり、英語力の不足については低いWTCと密接な相関が見られた。また、内容の明瞭かと共感、そしてL1の適当性については高いWTCと相関が見られた。
  • 教育的示唆としては次のことが考えられる。
    • L2が中心であるべきだが、状況によって、L1使用についても寛容であるべき。
    • 言語面の不足により引き起こされるcode-switchingがWTCに負の影響を与えるので、L2でのやり取りは学習者が自身のL2の不足を感じることのないように設計されるべき。
    • 教師は、学習者が自身の能力より高いL2使用を行う際には、L1をあえて使用することができる。
    • その文化や慣習に関連したL1の語彙の使用はL2でのやり取り中でも奨励されるべき。

この文献を読んで

今回は”Japanese EFL Speakers’ Willingness to Communicate in L2 Conversations: The Effects of Code-switching and Translanguaging”を紹介しました。日本人のEFL学習者のWTCにL1使用は大きく関わっていそうです。英語授業である以上、英語に最大限に触れる時間にする必要はありますが、それは日本語を排除することと同義ではありません。どうしても英語で言えないことがある時は教師と学習者で共有しているからこそ日本語に切り替えて議論の続きをすることも時には有意義なものになると思います。「英語だけ」や「日本語だけ」のような二項対立の議論ではなく、生徒の英語力を高めるためにlanguage doesn’t matterで日本語と英語を自然と切り替える授業を実現できればと思います。

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皆さんの実践や研究の少しでも役に立てば幸いです。Tomorrow is another day.

文献情報

Sato, R. (2023). Japanese EFL speakers’ willingness to communicate in L2 conversations: The effects of code-switching and translanguaging. Teaching English as a Second Language Electronic Journal (TESL-EJ), 27(3). https://doi.org/10.55593/ej.27107a5.

Last Updated on 2024年2月23日

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